「泣く子もだまる」最強の武将 張遼(7) 張遼、伝説となる

「泣く子もだまる」最強の武将 張遼(7) 張遼、伝説となる

対呉戦線の重要拠点・合肥(がっぴ)の守備を任された、張遼・楽進・李典。曹操は日ごろから仲の悪い3人をあえて組ませて、孫権との戦いに当たらせました。不仲な武将たちが、孫権の大軍をどう迎え撃つのか……じっくり見ていきましょう。


215年、呉の孫権はいよいよ曹操軍への本格的な攻撃に着手し、10万の兵を率いて合肥へと攻め寄せてきました。しかし張遼らに与えられた兵はわずか7000人ほどで、まともに戦ってはとても勝ち目がない状況でした(重要な拠点とはいえ、曹操軍は各方面に敵を抱えていたので、合肥だけに軍勢をまわすわけにもいかなかったのです)。

曹操が与えた秘策

曹操が与えた秘策

曹操が与えた秘策

しかし、そこは三国志の英雄である曹操。いざというときのための秘策を箱におさめ、「敵軍が来襲したら、この箱を開けよ」と命じていたのです。張遼らが箱を開くと、中の手紙にはこんな指示が書いてありました。

「もし孫権が攻めてきたならば、張遼・李典は出撃して戦え。
 楽進は城の守りを担当し、外に出て戦ってはならない」

これを読んだ将たちは、曹操の意図をはかりかねて、疑問を抱いたといいます。
そこに張遼が、自分なりに曹操の意向を解釈して、皆に説いて聞かせました。

「公(曹操)は外征して遠くにいらっしゃるので、救援が来るまでじっと待っていては、我々は孫権に打ち破られるだろう。
 つまり公がおっしゃるのは、敵の包囲が完成しないうちにこちらから攻撃をしかけ、相手の勢いをくじいてしまえということだ。
 そうして将兵を安心させたうえで、しっかり守りぬけとおっしゃっているのだろう」

こう話した上で、張遼は同僚たちに一致団結を求めます。

「孫権との勝敗は、この一戦で決まる。諸君はなにを疑っているのか?」

張遼の檄(げき)に、日ごろは仲の悪い李典も賛同しました。

曹操の意図とは?

曹操の意図とは?

曹操の意図とは?

曹操が指示書きでいわんとしたことは、「合肥を守り抜かねばならないが、そのためにはただ守っているだけではダメだ」ということでしょう。
孫権は満を持して、10万の兵で攻め寄せてきます。大軍であるのはもちろん、十分な訓練と準備をした軍勢ですから、士気が高く、チカラがみなぎっている状態なのです。
そんな勢いのある大軍に囲まれてしまっては、城の守りもいつかは持ちこたえられなくなります。よって孫権軍の包囲が完成する前に、まずは打って出て、相手に打撃を与えるべきだと曹操は言っているのです。戦場に着いたとたんにダメージを受ければ、孫権の大軍といえど士気は落ち込み、勢いが衰えてしまいます。そうすれば攻撃の手も弱まり、城を最後まで守り抜くことができるだろう―――こういう戦術なわけです。

なんとも奥の深い戦術というか、曹操の思慮の深さに感服させられますね。
しかし同時に、「こんな作戦通りに、上手くいくものだろうか?」とも思ってしまいます。なにしろ孫権軍は10万の大軍であり、いくらその勢いをくじくといっても、少数の兵でどれだけのことができるのでしょうか? 相手が体勢を立て直し、大軍で包囲してきたら、いくら張遼でもひとたまりもないのではないか……そんな心配をしてしまいます。
しかし曹操は、張遼・楽進・李典に絶大な信頼を寄せていたのでしょう。この難しいミッションをこなせると信じて、3人に合肥の守備をゆだねたのです。

李典の怒り

李典の怒り

李典の怒り

こうして孫権軍への攻撃を決意した張遼ですが、内心不安も抱えていました。楽進や李典は日ごろから仲が悪く、張遼はふたりが指示に従わないのではないかと恐れていたのです。
この張遼の不安を知り、李典は怒りをあらわにして詰め寄りました。

「この戦いは、国の一大事である。
私が個人的な感情にとらわれ、与えられた義務を忘れるような男だと思っているのか!?」

日ごろは不仲な相手だろうが、国家の一大事においては協力する。どうか自分を信じてくれ―――
李典は張遼にこう訴えたのです。この怒りの訴えは、きっと張遼の心にも響いたことでしょう。こうして張遼・李典は、孫権の大軍に勝負を仕掛けることになったのです。

決死隊800人に、牛肉をふるまう

決死隊800人に、牛肉をふるまう

決死隊800人に、牛肉をふるまう

出撃の前夜、張遼は危険な任務にもあえて従う決死隊をつのり、800人を集めました。
10万人の孫権軍に、たった800人で攻撃をかけるなど、狂気の沙汰とも思えます。しかし作戦の目的は孫権軍を全滅させることではなく、奇襲攻撃で打撃を与え、その勢いをそぐことでした。そのためには士気の高い精鋭を集め、スピーディーな猛攻で敵を叩かなくてはいけません。よって参加者を厳選する必要があり、弱い兵士、覚悟のない兵士は、むしろ邪魔だったのです。
800人はあまりにも少ない数です。しかし張遼と李典が率いるこの800人は、おそらく曹操軍の中でも最強の精鋭だったことでしょう。

張遼は800人の決死隊のため、牛を殺してその肉をふるまいました。そうして「明日は大いに戦おうではないか」と、ともに気勢をあげたのです。

夜明けの出撃―――張遼伝説の幕開け

夜明けの出撃―――張遼伝説の幕開け

夜明けの出撃―――張遼伝説の幕開け

次の日の夜明け、ヨロイと武具で身を固めた張遼は、決死隊の先頭に立って突撃しました。またたくまに敵の陣をやぶり、数十人の兵を討ち、2人の将軍を斬って捨てます。そうして大声で自らの名を叫びながらさらに敵側へと突入し、孫権を守る親衛隊のところまで迫りました。孫権の部下たちは、張遼の勢いの前に反撃どころではありません。驚きあわてた孫権は、高い丘に登って身を守ろうとします。張遼は大音声をあげました。

「我こそは盪寇(とうこう)将軍、張遼なり!
 孫権よ、正々堂々、降りてきて戦うがいい!」(注)

(注)盪寇(とうこう)将軍……張遼が曹操から与えられた、将軍の位。

こんな挑発に、孫権が乗ってくるはずがありません。夜明けの奇襲を受け、ひたすら混乱していた孫権軍でしたが、ようやく彼らも状況が飲み込めてこました。張遼率いる決死隊が案外少数であると知るや、孫権は張遼の部隊を囲むように命じました。大軍が少数の相手を殲滅(せんめつ)するには、四方八方から囲んで攻撃するのが手っ取り早いのです。
しかし張遼は包囲網などおかまいなく、前へと突撃しました。するとその勢いを恐れる敵軍は、包囲を解いてしまい、張遼は数十人の部下とともに脱出することができたのです。


どうです? この戦いぶり。なんといっても、わずか800人で10万人の敵軍に攻撃をかけるのですから、もはややることが神がかっていますよね。しかし、この「合肥張遼伝説」は、ラストにもうひとつのドラマを残していたのです。次回はさらなる張遼の活躍を、ご紹介します。


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