中国の王者観
■ 中国の王者観
中国の王者観
現代では、漫画やゲームなどにおいて三国志の主要メンバーの多くが爽やかな風貌で描かれています。颯爽と登場し、戦場を駆け巡る武将たちだけでなく、知略を張り巡らせる軍師たちも同様です。ここには時代のニーズが多分に加味されています。強いだけでなくカッコいい、頭が良いだけでなくカッコいい、そんな人物に魅力を感じる人たちが多いからでしょう。三国志の名将たちが全員強いだけで、風貌が冴えなかったらちょっとがっかりです。軍師たちも同様です。そんな風に描かれている漫画やゲームは人気が出ないのではないでしょうか。
一方で、中国では古来より王者の風格とは、「異相である」という思想があります。一般人とは異なる人相をしているわけです。特に「三国志演義」が書かれた「明」の時代は、人相術がブームだったため、かなり誇張されて描かれています。当時の人たちには、名将や名軍師たちはそういった人相であってほしいという期待があったわけです。ここには当然のように現代人との価値観とのギャップが存在します。
孫権の相
■ 孫権の相
孫権の相
呉の初代皇帝である孫権の人相は、「三国志正史」でも同様な記載があります。孫権は父親の孫堅が徐州・下邳の丞だった頃に誕生していますが、この赤子を一目見て孫堅は「高貴の相」だと思ったそうです。
「あごが角ばって、口が大きく、目がいきいきと輝いている」これが三国志正史の表現です。三国志演義ではさらにここに「碧眼で紫の髯」が付け加えられました。完全に異国の人間の風貌で、インパクト抜群になっています。これは「大貴の相」とされ、血縁者の中で最も長寿になるとされています。突如、皇帝を名乗った孫権ですが、それに相応しい人相の持ち主だったというわけです。イメージするのが難しい部分もありますが、想像するに、これは現代でもイケメンとして充分通用するような気がします。
劉備(玄徳)の相
■ 劉備(玄徳)の相
劉備(玄徳)の相
劉備(玄徳)の耳は大きかったことで有名です。自分で振り返って見ることができるほどだったと記されています。試しに自分の耳に手を開いてくっつけてみても、ギリギリ見えるかどうかですから、劉備(玄徳)の耳はよっぽど大きかったのでしょう。これは「垂肩耳」といい、「天下一人の大貴」だそうです。天寿は80歳以上とされています。三国志正史でも三国志演義でも同じような表現です。
ちなみに劉備(玄徳)は手が長かったことでも有名です。現代では足が長いことが重宝されますが、手が長いことも貴人の相だったようです。劉備(玄徳)の手は垂れれば膝より長かったと記されています。このあたりを忠実に描写している漫画やゲームは少ないですね。さわやかな劉備(玄徳)のイメージを消してしまうからでしょう。
司馬懿の相
■ 司馬懿の相
司馬懿の相
三国時代を統一に導く司馬一族の筆頭が司馬懿です。諸葛亮のライバルとしても有名ですね。孫の司馬炎は魏から禅譲を受けて晋を建国し、呉を亡ぼして統一を果たしました。他にも司馬師や司馬昭といった一癖も二癖もある人材を輩出しているのが司馬一族になります。中でも司馬懿の才は突出しており、三国志最高の英雄である曹操すらも警戒心を抱いたほどです。司馬懿は曹操の招聘を断っていますが、丞相にまで登りつめた曹操の命令に逆らうことができずに仕えることになりました。
司馬懿の相は「狼顧の相」です。顔だけを180度回転させて真後ろを向くことができたと記されています。狼が用心深く後ろを確認するように、老獪で、警戒心が強いのが狼顧の相です。表面的には社交的で寛裕な司馬懿でしたが、内心では絶えず他人を警戒し疑っています。曹操は後継者である曹丕に「司馬懿は臣下でいる男ではない」と忠告したそうです。曹操の見立てどおりに司馬懿は狡猾に権力を手にしていきます。
張飛の相
■ 張飛の相
張飛の相
張飛といえば呂布に匹敵する武勇の持ち主として有名です。イメージはかなり厳つい虎髭の巨漢ですが、虎髭は三国志演義の脚色のようです。三国志正史にはそのような描写はありません。三国志演義では、虎髭の他に、「豹のような眼に燕のようなあご」と記載されており、このイメージがかなり根強く定着しているようです。ちなみに燕のようなあごは「諸侯となる将軍の相」だそうです。そこから張飛の人相は構築されたのではないでしょうか。
張飛に関しては現代の漫画やゲームでもこのようなイメージをなぞっています。細くイケメンな張飛なんてまったく見たことがありません。この辺りの感覚は今も昔も変わらないのかもしれませんね。
関羽の相
■ 関羽の相
関羽の相
関羽といえば美しく長いあご髯がトレードマークですね。美髯公と呼ばれたほどですから、この設定を崩すことはできないでしょう。同時に関羽は真っ赤な顔をしていたことでも有名です。熟れた柿のように赤かったと三国志演義には記されています。さらに「丹鳳の眼、臥蚕の眉」といった描写もあります。これも貴人の相を表しており、「鳳凰眼」は「将来は王侯まで出世する相」であり、「臥蚕眉」は「若くして科挙に主席で合格するという相」だそうです。
三国志演義の主役である劉備(玄徳)ら三兄弟は、かなり特徴的な相をしていたという設定になっていますね。それだけ民衆の彼らに対する期待感が大きかったということではないでしょうか。
まとめ・異相が三国志の個性を豊かにしている
■ まとめ・異相が三国志の個性を豊かにしている
まとめ・異相が三国志の個性を豊かにしている
他にも「顔が黄色く、眼が赤い」という呉の陳武や、「黄色の髭が生えていた」という曹操の息子・曹彰、「頭蓋骨が後部に飛び出している反骨の相」の蜀の魏延などがいますね。
このような描写もまた三国志の個性を豊かにしているのではないでしょうか。そして個性豊かな英雄たちが激突するという三国志の魅力をさらに高めているのだと思います。
現代の感性にはなかなか受け入れられない部分もあるかもしれませんが、三国志演義の描写を忠実に表現した漫画や映画、ゲームがあったらぜひ見てみたいですね。なかなか面白い世界観になっているのではないでしょうか。イケメンばかりの三国志よりも魅力にあふれているかもしれませんね。
しかし、意外にも曹操の異相の話が伝わっていないことが不思議ですね。小柄だったということぐらいでしょうか。曹操こそ最も異相であってほしいのですが。