三者三様な「周瑜と小喬の出逢い」
■ 三者三様な「周瑜と小喬の出逢い」
三者三様な「周瑜と小喬の出逢い」
周瑜とその妻の小喬の出逢いに関するエピソードは、三国志演義、京劇、講談、民間伝承の寓話に存在します。しかし、その各話の内容は三者三様でどれが本当なのかは今日まで謎のままです。
残念ながら一番信じてよいとされる正史三国志(呉志)には二喬について触れていません。いつもは孫策を主人公とする「孫策と大喬の出逢い」に付録感覚でセットにされる「周瑜と小喬の出逢い」ですが、今回は周瑜を主人公にしてお送りします。
※注意
会話の部分や人物の行動を示す描写などに少々フィクションを加えていますが、大まかな会話やシーンの内容は京劇や講談の脚本の通りです。
第一章 皖城(かんじょう)攻略
■ 第一章 皖城(かんじょう)攻略
第一章 皖城(かんじょう)攻略
孫策は荊州を攻略する第一歩として、喬公が守備をする皖城(かんじょう)に軍を進めました。呉にとっては攻城することになるので、兵力は多くても戦況は厳しい。しかも相手は自ら鎮西将軍として陣頭に立ち、匈奴から幾度も漢の地を守った実績のある喬公です。
孫策は一度怒号を発するとその音量で一人は死に、周りにいた兵士が吹き飛ばされて衙門の旗まで飛ばすことができたと言われる猛将です。その隣には、長身でイケメンな周瑜がいつもついており、彼も電光石火の早業で「まるで草を刈り取るように兵士の首を斬る」と言われる美将です。
当初は手を焼いた皖城(かんじょう)の攻略戦でしたが、若者集団の勢いに壮年兵士が圧倒される形で皖城(かんじょう)が陥落。こうして孫策は皖(かん)の領地、民と「江東の二喬」と呼ばれる喬公の二人の娘をGETしたのでした。
第二章 捕虜になった二喬
■ 第二章 捕虜になった二喬
第二章 捕虜になった二喬
「おーい、公瑾!!あの美女で有名な二喬を捕虜にしたから一緒に見に行こうよー」
けたたましい大声とともにニコニコしながら屋敷の庭で笛を吹いている周瑜公瑾に走り寄るのは孫策伯符。二人は10代の頃から親交が深く、義兄弟の仲なので字で呼び合っています。
「えー、めんどくさ。俺は興味ないから伯符だけで行けば?」
そっけない態度で主君をあしらっているのがこの物語の主人公、美周郎こと周瑜公瑾です。孫策と違い周瑜は美将で知られる人だったので、言い寄ってくる女性は多くあり、わざわざ自分で見にゆかなくてもそれなりの美女は降って湧いたように周りに集まります。
「公瑾、貴様後悔しても知らないぞ!!」
もともと短気でじっとしていられない性格の孫策は、親友に断られて卑屈になるのではなく、むしろ啖呵を切りました。これには周瑜も慣れっ子です。
「どうぞお一人でお楽しみください」
仕方がないので孫策は、ひとりで二喬の実家に行くことにしました。
第三章 いきなり結婚宣言!!
■ 第三章 いきなり結婚宣言!!
第三章 いきなり結婚宣言!!
―ドタドタドタドタッ
誰かが走ってくる足音が周瑜の部屋にどんどん近づいてくる。(またアイツ走ってるのか…)周瑜の頭には廊下を走っている孫策の姿が容易に浮かびました。
―バターンッ
「公瑾っ!!」
息を切らした孫策が周瑜の部屋の扉を勢いよく開いて、我らが主人公の名前を呼びました。ほらやっぱりと微笑みながら振り返ると呼吸を整え目をキラキラと輝かせている孫策が、
「俺決めた!!大喬ちゃんを嫁にする!!」
「えっ…!?」
いきなりの結婚宣言に周瑜は思わず驚きの声を漏らしてしまいました。それと同時に孫策のハートを射止めた二喬について興味も湧いてきました。
第四章 大喬の相談
■ 第四章 大喬の相談
第四章 大喬の相談
孫策は生涯の伴侶にすると決めた女性の大喬のことを思うとなかなか眠れませんでした。もうウキウキして仕方ない孫策は次の日も大喬を訪ねに行きました。
孫策は喬公邸の立派な桃園を大喬と二人で歩きながら話していました。大喬は孫策の話を聞いてにこやかに笑いますが、ときどき悲しい顔をするときもあったので、思い切って大喬にそのわけを尋ねてみました。すると大喬は申し訳なさそうに孫策を見上げると、こう訴えました。
「私はあなた様に見初められて大変嬉しいんですけど…気になるのは妹のことなんです。私が輿入れすると妹はひとりになってしまいます。今までいつも一緒に過ごしてきたので、あの子のことが心配なんです。どなたかあの子をもらってくださる素敵な殿方はおりませんでしょうか?」
妹の小喬も姉の大喬に負けず劣らずの美女です。それくらい孫策も承知していたので、もしや…縁談を断る口実では…?と勘ぐりはしたものの大喬は真っ直ぐ自分の目を見つめて嘘をついているようには見えない。
「妹君もあなたのように美女ではないか。あんなに美人であれば放っておく男がいるはずがない。どうしてそんなに心配するんだい?」
孫策は素直にわけを問いました。
「そのー…妹は気が強い娘でして…。それにひどく面食いなんです。これまで妹を口説いてきた殿方は何人もいたんですが、口説かれる度に妹は何人もの難題を殿方に出しては縁談のお断りを繰り返してきたんです。」
大喬はまるで自分のことのように恥ずかしがりながら答えました。
これを聞いた孫策の頭にある男の顔がパッと浮かびました。
「俺それに当てはまる男を一人だけ知っている。おそらく妹君もそいつの何もかもが気にいるだろうよ。次会いに行くときそいつを連れて来てもいいかい?」
「お願いします!!」
大喬はなぜか少々食い気味に孫策の提案を受け入れました。
第五章 孫策の誘いふたたび
■ 第五章 孫策の誘いふたたび
第五章 孫策の誘いふたたび
今日も親友の孫策が周瑜の屋敷に遊びに来ていました。しかし、周瑜が気になったのは孫策の眉間にあるシワです。どう見てもなにかを考えているとしか思えない。孫策は普段怒っているかニコニコ笑っているのでいつも見かけない親友の表情に周瑜は違和感がありました。
「伯符どうしたんだ?ニコニコしてるなと思ったら今度は眉間にシワを寄せているし」
「いや…なんでもない」
目的は周瑜に小喬を会わせること。しかし、一度誘って断られているので、どう切り出したらよいのか…。そのことで孫策は珍しく考え事をしていたのです。
周瑜はあからさまになにかを隠そうとしている孫策をからかってやろうと冗談交じりに
「どうした?大喬と喧嘩でもしたのか?」
と聞いてみました。
すると孫策はため息交じりに口を開きました。
「実は大喬ちゃんに小喬ちゃんの結婚相手を紹介してと頼まれてしまってね」
「ふーん。誰でもいいんじゃない?なんでそんなに伯符が悩む必要があるんだ?だって小喬さん美人なんだろ?」
周瑜はまるで他人事のように返答しました。
「いやそれじゃダメなんだよ。たしかに小喬ちゃんは可愛いから今まで言い寄る男はいっぱいいたらしいんだが…イケメンで小喬ちゃんが考えた問題を解けないと断っちゃうらしいんだ…。それで俺は公瑾を紹介したいと思ってたんだけど…一回断られているし、小喬ちゃんを高飛車な女の子だと思わせるのも大喬ちゃんに悪いから。どうやって公瑾を誘えばいいか悩んでたんだよねー」
孫策はなかなかうまい言葉を見つけることができなかったので、正直に打ち明けました。
「なんだそんなことか…。いいよ、会いに行っても」
案外あっさり周瑜が承諾したことに孫策は驚きました。そして今まで自分が真剣に悩んでいたのはなんだったのだろうという虚無感が彼をおそいました。
あとがき
■ あとがき
あとがき
前編は主人公の周瑜よりも孫策の方が、目立ってしまっていますがあくまで周瑜が「小喬に会おうかな?」と思うきっかけとなる布石に過ぎません。前編では周瑜はまだ自分の屋敷すら出ていません。この話は次回でいよいよクライマックスを迎えます。後編につづく!!