まず、作者はどんな人?
■ まず、作者はどんな人?
まず、作者はどんな人?
『SWEET三国志』という漫画をご存知でしょうか。1992年から1996年にかけて、講談社の「ヤングマガジン」の系列誌で連載された三国志をベースにしたギャグ漫画です。単行本は、最初は講談社から出たのですが、その後何度か出版社を変えて再刊されています。ここではメディアファクトリーのMF文庫版、全3巻を底本として紹介を進めていきます。
作者は片山まさゆき。代表作は『ぎゅわんぶらあ自己中心派』、『ノーマーク爆牌党』、比較的最近(と言っても連載終了から数年が経ちますが)のものとしては『打姫オバカミーコ』などがあります。
ご存知の人はご存知のように、麻雀漫画でその名を知られた漫画家であり、それ以外の作品はこの『SWEET三国志』と、大昔にファミコン通信で連載したゲーム漫画『大トロ倶楽部』以外はあまり知られていないかと思います。
こんなところにも見られる、コーエー『三國志』の影響
■ こんなところにも見られる、コーエー『三國志』の影響
こんなところにも見られる、コーエー『三國志』の影響
執筆順でいうと『SWEET三国志』よりゲーム漫画の『大トロ倶楽部』が先です。文庫のあとがきに書いてあるのですが、そもそも『SWEET三国志』の執筆の経緯は、ゲームの『三國志Ⅰ』に片山まさゆきがハマったことだったそうです。
そのあとがきで書かれているイラストと、執筆年代から推測するに、1988年発売のファミコン版『三國志』のことだと思われます。(ちなみに、『大トロ倶楽部』作中にも、登場人物たちが『三國志』のゲームで遊んでいるエピソードがあります)
余談となりますが、今でこそ麻雀漫画の大家として知られる片山まさゆきですが、単行本が何巻も続いたのはこの『SWEET三国志』が初めてで、当時は「中国には足を向けて寝られない」という思いであったとか。
『SWEET三国志』はどんな作品だった?
■ 『SWEET三国志』はどんな作品だった?
『SWEET三国志』はどんな作品だった?
『SWEET三国志』は、『三国志演義』を直接の底本としています。つまり、劉備(玄徳)と関羽・張飛が桃園で義兄弟の契りを結び、貂蝉が董卓と呂布を誘惑し、戦場では華々しい一騎打ちの応酬が繰り広げられる、ということです。
表面的にはふざけたギャグ描写が多いのですが、この作品のオリジナルキャラクターというべき登場人物は、劉備(玄徳)のガールフレンド(のちに妻)である蓉(よう)ちゃんくらいしかいません。あとは、演義のキャラクターがそのまま登場します。
話はまず劉備(玄徳)が関羽・張飛と出会って桃園に杯を交わし誓いを立て、最終的には諸葛亮が五丈原に死ぬくだりで終わるのですが、それはまだおいておきましょう。とにかく、桃園の誓いから始まります。
どんな雰囲気の作品かと言いますと
■ どんな雰囲気の作品かと言いますと
どんな雰囲気の作品かと言いますと
最初の方で劉備(玄徳)の母親が出てきます。『三国志演義』ですと、家宝の刀を売って高価なお茶を買ってきてというくだりがありますが、文庫3冊でまとまる作品ですのでそんな細かいエピソードまでは拾っていません。母親ですが、登場シーンの前に黄巾族の襲撃があったということで、頭にでっかい斧が刺さっています。その状態で普通に喋り、このあいだのエイズ検査の結果でHIVは陰性だったが漢の皇室の血は陽性だった、というような話をし、血を吐いて死にます。
だいたい一事が万事、こんなペースで進んでいくのですが、これでストーリーはあくまでも三国志を忠実になぞっていくのが面白いところです。
ちなみに、片山まさゆき本人がのちに語ったところでは、「蜀が勝って天下を統一してしまうような話を書いてみようかとも思っていたが、実際にキャラクターを動かしてみるとそんなことはできなかった」という話です。
ではストーリー展開を追ってみましょう
■ ではストーリー展開を追ってみましょう
ではストーリー展開を追ってみましょう
そのあと関羽と張飛が出てきます。関羽はただのヒゲのおっさんですが、張飛は半裸にサングラスをかけたムキムキマッチョマンになってます。ちなみに全漢ボディビル大会で万年準優勝だそうです。一応これは伏線なのですが、今更引っ張るほどのネタでもないので書いてしまいますと、毎年優勝しているのは後で出てくる呂布です。
一応は主人公なんですが……劉備(玄徳)
■ 一応は主人公なんですが……劉備(玄徳)
一応は主人公なんですが……劉備(玄徳)
この作品は演義ベースですので、主人公は当然ながら劉備(玄徳)です。しかし、あまり有能な人物としては描かれていません。そもそも『三国志演義』の劉備(玄徳)自体、有能な人物として描かれているのかというと微妙な線ですが、『SWEET三国志』の劉備(玄徳)の場合、軍の指揮も剣の腕もさっぱり、そして肝心要の人望やカリスマ性すらないのです。関羽や張飛に対しても頭が上がらず、よくペコペコしています。
かと思えば、流れが自分に向いたときは調子に乗りやすい性格で、そういう時はガールフレンドにまで馬鹿にされていたりします。まあ、愛すべきダメ男、という感じです。
イケメン風に描かれている曹操
■ イケメン風に描かれている曹操
イケメン風に描かれている曹操
これに対し、曹操はそこそこイケメン風に描かれていて、有能です。勝手に「俺が主人公だ」などとメタな主張をしたりもします。イヤな奴な側面もありますが、この漫画の登場人物はだいたい全員そうなので目立ちません。むしろ、部下の命がけの忠義に感動して反省して精神的な成長を見せたり、本当に主人公的な風格があります。この時代に書かれた作品としては珍しいことといえます。
さて、黄巾の乱は、(唐突に出てきた)曹操が指導者の張角を討ち取ったことで終結します。このあたりからの細かい展開はだいたい原作通りで、董卓(デブ)、孫堅(誰だか分かりませんが、当時有名だったらしい野球選手に似せられています)、袁紹(猿にされています)、袁術(『おそ松くん』のイヤミに似ている)らが曹操と並んで台頭してきます。
暴君董卓と偽帝袁術
■ 暴君董卓と偽帝袁術
暴君董卓と偽帝袁術
早回しでストーリーが展開していくとはいえ、董卓篇のウェイトは大き目です。美女・貂蝉が呂布と董卓と誘惑して、というくだりがちゃんと描かれます。ちなみに呂布は、フランケンシュタインがボディービルを始めたみたいな姿で描かれていますが、繊細で、貂蝉を董卓に取られて落ち込んで膝を抱えたりします。
その貂蝉は、董卓の死後、徐州の太守になってイケイケ状態になっている劉備(玄徳)のもとに転がり込み、側室のひとりになります。まあ、後で呂布に奪い返されたりもするのですが。
全3巻のうちの1巻は、玉璽を奉じて(勝手に)皇帝就任宣言をした袁術が、曹操を中心とした連合軍に攻められ包囲され、劉備(玄徳)の軍勢が弱いのを見てそこから突破し、かろうじて落ち延びる、ここまでが描かれます。史実でいうと、184年から197年までということになります。登場人物たちの外見年齢はまったく変わりませんが。
では、2巻の紹介に続きます。